
皆さんは、インクルーシブ保育というものをご存知ですか?インクルーシブ保育とは、多様な違いを受け入れ、みんなで一緒に育つことを目指す保育のことです。多様性が尊重される今、保育の現場でも一人ひとりの違いを認め合い、その子らしさを大切にする視点が求められています。その一方で「多様な子どもたちとどう関わるのが正解なんだろう」「周りの子とのバランスが難しい」と悩む保育士さんも少なくありません。この記事では、インクルーシブ保育でよくある具体的なシーンと共に、子どもへの関わり方や対応のポイント、インクルーシブ保育を実践するための環境づくりについてご紹介します。ぜひ参考にしてみてくださいね。

インクルーシブ保育とは?
多様な子どもが同じ場で一緒に育つ保育のこと

インクルーシブ保育とは、障害の有無や発達のペース、家庭環境や文化的背景の違いに関わらず、すべての子どもが同じ場で共に育つことを目指す保育のことです。たとえば、言葉でのやりとりが少し苦手な子には絵カードを使ったり、集団活動が難しい子には安心できる居場所を用意したりなどがあります。一人ひとりに合わせた関わりを日々工夫することで、子どもたちは自然と「みんな違っていいんだ」と感じられるようになるでしょう。保育士が寄り添いながら環境を整えることで、子どもたちが安心して自分らしく過ごせる毎日が育まれていきますよ。
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統合保育(インテグレーション保育)との違いは?
子どもに合わせて環境を変えるかどうかの違い
インクルーシブ保育と統合保育は、どちらも多様な子どもたちが共に育つことを大切にしていますが、その考え方や関わり方には少し違いがあります。統合保育は、主に障害のある子どもとない子どもが同じ保育の場で生活することを目的としています。必要に応じて障害のある子どもに対して個別の支援を行いながら、通常の保育に参加していく保育スタイルです。たとえば、活動内容は同じでも、援助が必要な子には保育士がそばにつき、その子ができる部分を一緒に探しながら関わることが挙げられるでしょう。一方、インクルーシブ保育では、障害の有無に関わらず、最初から子ども一人ひとりの違いを前提として保育環境や活動そのものを工夫することが重視されます。たとえば、外国籍の子どもが日本語を学びながら、お互いの文化を共有できる場をつくることが、その一例と言えるでしょう。
統合保育については、以下の記事も参考にしてみてくださいね。
クラスでよくある具体シーンと対応方法①
シーン:集団活動に参加できない子がいるとき

インクルーシブ保育のクラスでよくある具体シーンの1つ目は、集団行動に参加できない子どもがいる場面です。朝の会や製作活動、話を聞く時間など、みんなで同じことに取り組もうとするときに、次のような姿が見られることがあります。
- その場に座っていられず、立ち上がってしまう
- 途中で教室の中を歩き回る
- 周囲とは違う遊びや行動を始めてしまう
このような様子が続くと、「どうして参加できないんだろう」「今はみんなでやる時間なのに…」と、保育士として焦ったり、戸惑ったりすることもありますよね。しかし、こうした行動の背景には子どもなりの理由や困りごとが隠れていることが少なくありません。たとえば、
- 集団のざわざわした音や、周囲からの視線に強い不安を感じている
- 活動の流れや指示の意味が理解できず、どう動けば良いか分からない
- 感覚的にじっと座っていることが難しく、体を動かしたくなってしまう
など、見た目だけでは分かりにくい理由が関係している場合があります。その子の行動を参加できないと捉えるのではなく、何に困っているのか・どんな環境なら安心できるのかに目を向けることが大切ですね。
対応方法:その子なりの参加を認めてあげよう
集団行動に参加できない子がいる場合、まずは、周りの子どもたちと同じように最初から最後まで参加することが大切という考えを少しだけゆるめてみましょう。集団に入れないからといって参加していないと捉えるのではなく、その子なりの関わり方や距離感で場につながっているという視点を持つことがポイントです。たとえば、
- 少し離れた場所から活動の様子を見ている
- 最初の5分だけ参加し、途中で席を外す
- 製作では配る係や道具を運ぶ係など、別の役割をお願いする
このような関わり方も、その子にとっては安心して集団とつながるための大切な一歩です。全員が同じ形で行動することを目標にするのではなく、その子が安心してその場にいられるかを大切にしてみてくださいね。そうした関わりを続けていくことで、周りの子どもたちも、参加の仕方にはいろんな方法があって良いということを自然に学んでいくことができるでしょう。
クラスでよくある具体シーンと対応方法②
シーン:言葉が伝わらない・誤解が生まれるとき

2つ目は、言葉が伝わらない・誤解が生まれる場面です。日本語が得意でない子や、言葉の理解に少し時間がかかる子と関わるなかで、次のような場面に出会うことがあるかもしれません。
- 何度伝えても指示がうまく伝わらない
- 注意したつもりが、突然泣き出してしまう
このような様子が続くと、「話を聞いていないのかな」「わざとやっているのかな」と感じてしまうこともありますよね。しかし多くの場合、それは聞いていないのではなく、言葉の理解のスピードや理解の仕方が周りの子と違うだけなのです。たとえば、日本語を覚えている途中の子どもは、次のような状況になることがあります。
- 言葉の意味を頭の中で一つひとつ確認しながら聞いている
- 長い文章や抽象的な表現を理解するのが難しい
- 内容を十分に捉えられず、どう行動すれば良いか分からない
- 結果として、戸惑いや不安が強くなる
注意された場面で泣くのは、言葉の意味が分からず、怒られていると感じるためかもしれません。子どもにとっては、分からない状況そのものが大きなストレスになっている場合もあるのです。
対応方法:伝え方の方法を変えてみよう
言葉が伝わらない・誤解が生まれる場面では、伝え方の方法を変えてみることが大切です。たとえば、次のような方法があります。
- 実物を見せる
道具や絵本、玩具など実際のものを見せながら説明すると、言葉だけでは理解しにくい内容も分かりやすくなります。
例:粘土遊びの手順を、実際に材料を見せながら伝える。 - ジェスチャーを使う
手や体の動き、表情などを加えると、言葉の意味を補い理解を助けます。
例:「座ってね」と言いながら手で椅子を指す。 - 短い言葉に分ける
一度に長い文章で説明するのではなく、短く区切って伝えることで、子どもが順序立てて理解しやすくなります。
例:まず手を洗う、次に机に座る、のように行動ごとに区切る。
ここで重要なのは、伝わらなかったという事実を自分のせいや子どものせいと考えないことです。代わりに、次はどうしたら分かりやすく伝えられるかを考えることができると良いですね。この姿勢こそが、子ども一人ひとりの違いを認め、サポートするインクルーシブな関わり方につながっていくでしょう。
クラスでよくある具体シーンと対応方法③
シーン:感覚が敏感で困りごとが起きるとき

3つ目は、感覚が敏感な子どもの行動によって、保育中に困りごとが生じる場面です。日常の何気ない場面でも、次のような姿が見られるかもしれません。
- チャイムや周囲の話し声など、大きな音がすると耳をふさいでしまう
- 服のタグや素材、のりや絵の具の感触を強く嫌がる
- 人との距離や急な声かけなど、ちょっとした刺激をきっかけに気持ちが不安定になり、パニックのような状態になる
このような様子が続くと、「わがままなのかな?」「慣れればできるのでは?」と感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、感覚が敏感な子どもにとっては、大人や周りの子どもたちがほとんど気にならない刺激であっても、強い不快感や恐怖を伴うつらい経験になることがあります。音や触覚、におい、視覚などの感じ方には個人差があり、その子は嫌がっているのではなく、必死に自分を守ろうとしている場合も少なくありません。
対応方法:過ごしやすくなる工夫をしよう
感覚が敏感な子どもの行動によって、保育中に困りごとが生じる場面では、子どもが受けている刺激をできるだけ減らすことが大切です。たとえば、次のような配慮が考えられます。
- 音を小さくする
音楽の音量を下げたり、必要に応じて静かな時間や場所を用意したりすることで、過剰な刺激を減らすことができます。 - 触れない選択肢を用意する
のりや絵の具などの感触が苦手な子には、手袋を使う、スプーンやヘラなどの道具を使う、シールに変更する、見るだけの参加にするなど、無理のない選択肢を用意します。 - 安心できる場所をつくる
仕切りのあるコーナーやクッションスペースを用意することで、気持ちが不安定になったときに落ち着くことができます。
こうした配慮は、決して特別扱いや甘やかしではありません。全員に同じように接することが公平なのではなく、それぞれの子どもが安心して過ごせるように環境を整えることが、インクルーシブ保育の考え方と言えるでしょう。
感覚特性については、以下の記事も参考にしてみてくださいね。
子どもと関わるなかで特に気をつけたいこと
多様な環境に順応できるようサポートする
インクルーシブ保育では、多様な子どもたちが共に過ごすため、環境への適応に難しさを感じる子もいるでしょう。感覚過敏のある子は音や人の多さに不安を覚え、社会的スキルが未発達な子は関わりに戸惑い、孤立しやすくなることがあります。一方で、発達の早い子や特定の分野に強い興味を持つ子は、活動が簡単すぎて意欲を失う場合もあります。こうした課題を防ぐには、保育士が一人ひとりの発達や関心に応じて活動や環境を調整し、安心と挑戦の両立を図ることが大切です。
自己否定につながらないようにする

多様な子どもが共に過ごすなかで、発達や特性の違いから「自分にはできない…」と感じ、自己否定につながることがあります。特に繊細な子どもは、周囲との比較や配慮のない言葉によって自信を失いがちです。そのため保育士は、できなかった点を指摘するのではなく「ここまで頑張ったね」「昨日より少しできたね」と、その子なりの成長や努力を認める関わりが大切ですよ。小さな成功体験を積み重ねることで、子どもは安心し、自分らしさを大切にしながら前に進む力を育んでいくことができるでしょう。
個別対応による不公平感が生じないようにする

インクルーシブ保育の特徴として一人ひとりのニーズに応じた個別対応が欠かせませんが、その関わり方によっては周囲の子どもが不公平に感じてしまうことがあります。そのため、特定の子への支援が特別扱いと受け取られないように、周囲の子どもたちへ声かけをするようにしましょう。「得意なことや難しいことは人それぞれ違うんだよ」と言葉で伝え、順番や役割を工夫しながら関わることが大切です。個別対応の背景や意味を分かりやすく共有することで、子どもたちはお互いの違いを理解し、助け合う気持ちを自然と育んでいくことができますよ。
障害児保育や支援方法については、以下の記事も参考にしてみてくださいね。
子どもにとってインクルーシブ保育はなぜ大切?
自分と他人との違いを自然に知ることができる

インクルーシブ保育が子どもにとって大切である理由の1つは、自分と他の人との違いを、自然に知ることができる点にあります。周りの子たちの遊び方や言葉、行動のペースの違いに触れることでいろいろなやり方があると知り、自分の感じ方を客観的に見つめるきっかけになるでしょう。保育士がそれぞれの違いをその子らしさとして伝えることで、子どもたちは比べるのではなく認め合う心を育むことができます。また、相手を尊重しながら自分の個性も大切にできるようになりますよ。
思いやりや想像力を育てることができる
インクルーシブ保育を取り入れることで、子どもたちは思いやりの心や想像力を育むことができます。たとえば、発達のゆっくりな友だちを手助けするなかで「こうしてあげたらできるかも」と工夫し、自然に共感力や協調性を育むことができるでしょう。また、遊びのなかでおもちゃの取り合いなどの小さなトラブルが起きることがあるかもしれません。そういった場面でも、相手の立場に立って考えたり、譲り合う方法を考えたりする問題解決能力が養われていきますよ。
多様性を肯定する考え方を無理なく身に付けられる

他にも「みんなが同じでなくても大丈夫」という価値観が浸透することで、多様性を肯定する考え方を無理なく身に付けることができるでしょう。多国籍のお友だちと関わるなかで、誕生日の祝い方や食べ物の好みなど、日常のちょっとした違いを感じる場面があるかもしれません。そういった場面を一緒に過ごしてお互いの違いを共有することで、多様な価値観を尊重する姿勢が自然に身についていきます。また先入観や偏見、差別を持たない考え方を育み、将来にわたって豊かな人間関係を築く土台となるでしょう。
インクルーシブ保育を実践するためには?
保育士個人の理解と専門性を高める

インクルーシブ保育を実践するためには、まず保育士一人ひとりが、多様な子どもたちへの理解を深め、専門性を高めていくことが欠かせません。発達段階に応じた支援方法や医療に関する知識を学んだり、障害の特性に応じた環境調整の工夫を知ったりすることが、その子に合わせた関わりにつながります。また外国籍の子どもには、言語や文化の違い、宗教的なルールへの配慮も必要です。保育の方法に迷いを生まないために、定期的な研修や、児童発達支援士などの外部専門家との連携を行うと良いでしょう。
児童発達支援士については、以下の記事も参考にしてみてくださいね。
園全体の体制とチーム力を高める

保育士個人の理解や専門性だけでなく、園全体の体制やチーム力を整えることも非常に大切です。たとえば、子ども一人ひとりの特性や支援の方法を保育士間で共有したり、連絡帳やミーティングで情報を細かく伝え合ったりすることです。そうすることで、誰が対応しても安心して関わることができますね。また、行事や活動の計画を立てる際に、特別な配慮が必要な子どもも含めて全員が参加できるよう役割を分担することも、チーム全体の力が問われる場面です。こうした多角的な視点で支援できる環境が整うことで、子どもも安心して活動に取り組め、質の高い保育が実現できるでしょう。
保護者との信頼づくりを大切にする

保護者との信頼関係を丁寧に築くことも必要不可欠です。日々の保育のなかで子どもの様子や困りごとを具体的に伝えたり、家庭での工夫や子どもの得意なことを共有したりすることで、保護者も安心して子どもを預けられますね。また、支援の方法や環境の工夫について相談を重ね、一緒に考えていく姿勢を見せることで、家庭と園が同じ目標に向かって協力できるようになります。こうした信頼関係を築くことで、子どもは園でも家庭でも安心して自分らしく過ごせるようになりますよ。そして、保護者も保育士を頼りにしながら安心して子どもの成長を見守ることができるでしょう。
まとめ
一人ひとりが安心して過ごせる場をつくろう!

インクルーシブ保育に完璧な正解はありません。試行錯誤したり、うまくいかない日があったりしても大丈夫です。大切なのは、子ども一人ひとりに向き合い、その日にできたことや落ち着いて過ごせた場面に目を向けて振り返ることです。もちろん、多様な子どもに対応するには専門性や柔軟な判断力が必要で、個別支援の準備や情報収集に時間がかかることもあるでしょう。それでも、周囲と協力しながら少しずつ関わりを重ねることで、みんなが安心できる環境につながっていきますよ。






















