保育園には、精神遅滞や知的障害と言った課題を抱えている子供も通園します。精神遅滞や知的障害を抱える子供へ、具体的な対応方法を考える機会がある保育士さんもいるのではないでしょうか。この記事では、精神遅滞と知的障害の違いや特徴、適切な対応方法について解説します。精神遅滞や知的障害の疑いがある子供を受け持っている保育士さんや、子供たちへの対応について知りたい保育士さんは、ぜひ参考にしてみてくださいね。
精神遅滞と知的障害の違いは?
ほぼ同義語で発達に支障があること
精神遅滞と知的障害はほぼ同義語で、どちらも子供の精神の発達が遅れている状態を指す言葉です。さまざまな場面で同義語として使われることが多いので、二つの言葉が同じ意味合いであることを理解しておきましょう。まず精神遅滞とは、主に医学用語として使われる言葉で、知的障害という言葉が生まれるよりも前から使われています。知的障害は、精神遅滞という言葉が持つ否定的なニュアンスを含まない言葉でもあるので、学校や保育の現場では知的障害という言葉が使われることが多い傾向ですよ。
精神遅滞とは
精神の発達が遅れている状態
精神遅滞とは、主に医療の現場で使われる言葉で、精神の発達が遅れていることを指します。精神遅滞を抱える子供は、IQによってできることや症状の重さが異なりますよ。一般的にIQは70~100程度と言われていますが、IQによって精神遅滞の程度が以下のように分類されます。
・中等度(IQ35~49)
・重度(IQ20~34)
・最重度(IQ19以下)
軽度の精神遅滞の子供は身支度などを自分ですることができます。重度の精神遅滞の子供は身の回りのことにもサポートが必要なことがありますよ。
知的障害とは
生活に関わる能力の発達に支障がある状態
知的障害とは、主に学校教育法上の用語として使われる言葉で、生活に関わる能力の発達に支障があることを示します。知的障害の度合いはそれぞれ子供たちによって異なります。症状が軽い子供は、学習などで問題を抱えることはあっても生活する上では自立することが可能ですよ。また、学習面での困りごとが起きにくい保育園時代に、保育園にいる定型発達児と同じように遊んだり活動できている場合は、軽度の知的障害である可能性が高いでしょう。症状が中程度、重度になってくると生活する上でも他者からのサポートが必要になることがあります。
精神遅滞や知的障害の症状
運動能力の発達の遅れ
精神発達に支障がある子供たちは、運動能力の発達に遅れが出ることがあります。これは、スポーツのルールを理解することが難しかったり、競争する意欲が少なかったりすることで運動意欲を持ち続けにくく、発達しづらくなってしまうためです。このような場合、子供が運動への苦手意識を持つ前に、ルールが簡単なスポーツを幼いうちから取り組めると良いですね。なぜなら、体力づくりに運動は欠かせないうえに、一生の趣味として大人になっても続けることができるからです。少しでも運動に興味を示しているようであれば、幼いうちから取り組んでみましょう。
発話の遅れ
精神遅滞や知的障害の症状に、発話の遅れがあります。同じ年齢の子供たちと比べて話す内容が幼い、または、発話がないなどの症状があれば、病院に行って相談してみると良いでしょう。知的障害が発話の遅れにつながるのは、認知能力や情報処理の能力の発達が遅れることが原因です。また、努力次第で必ず話せるようになるとも限らないため、発話の練習は焦らせずに本人のペースで行うことが大切ですよ。
学業についていけなくなる
精神遅滞や知的障害の症状として学業面での遅れが見られます。この症状は、保育園ではあまり気づかれないかもしれません。しかし、小学校に通い始めてから目立つようになります。一般的に精神遅滞や知的障害の子供は、症状が重いほど早く気づかれ、症状が軽いほど後から気づかれることが多いです。そのため、日常生活に支障がない程度の軽度知的障害の子供は、勉強をする歳になってから気づかれる場合が多いでしょう。
衝動的な行動をとってしまう
精神遅滞や知的障害の子供は、衝動的な行動をとってしまうことがあります。例えば、黙ってお話を聞く場面で一方的に話し始めてしまったり、順番待ちができないなどの症状です。また、そこまで大きな行動をとらなくとも、みんなと授業を聞いているときに1人だけじっとしていられない、もじもじ動いてしまうなどの症状が出ることもありますよ。このような場合の対策例としては、衝動を抑えてじっとしているときに、沢山褒めてあげることが大切と言えるでしょう。
身の回りのことに時間がかかる
精神遅滞や知的障害の子供は、身の回りのことに時間がかかってしまうことがあります。身の回りのことというのは、例えば、物を片付けたり、自分で服を着替えたりといったことです。障害の程度によっては、年齢を重ねてもできないままの子供もいますよ。しかし、一度覚えたことはルーチンワーク化して、何度も繰り返すうちにできるようになる子供もいます。このように身の回りのことに課題がある子供には、わかりやすく手順を覚えてもらい、自分で少しずつでもできるようにサポートしてあげましょう。
精神遅滞や知的障害の原因
病的要因
精神遅滞や知的障害の原因の一つに、病的要因があります。病的要因となる主な病気には、出生前に感染するものと出生後に感染するものの2種類があります。出生前の病気を防ぐためには母体の生活環境を見直し、必要な検査を受けて保護することが有効です。また、出生後の病気を防ぐためには、定期的に検診へ行くことや、ワクチンの接種が有効です。
・染色体異常
・先天脳奇形
・内分泌傷害
・脳外傷
・出生時の低酸素脳症
・ポリオ
・百日咳
心理的要因
出生後の生活環境が原因で精神遅滞や知的障害を引き起こすことがありますが、この場合はリハビリテーションや治療で回復することがあります。生活環境が原因とされている理由の一つに、出生後に特殊な事情で家族や養育者とのコミュニケーションが不足することが挙げられます。赤ちゃんの精神や知的な発達を促すためには、身近な人とのコミュニケーションや愛情、信頼が欠かせません。こうした経緯から知的障害の疑いがある子供は、体験を通して学びを得ていくという特徴があるため、専門の施設でリハビリテーションや適切な治療をすることで、発達の遅れを解消できる可能性がありますよ。
遺伝的要因
精神遅滞や知的障害は、遺伝的な要因によって引き起こされることがあります。知的障害のタイプの中でも、メンデル型遺伝疾患と呼ばれるものは親から子へ遺伝します。知的障害の原因は遺伝子の掛け合わせであり、身内に知的障害の人がいなかったとしても、遺伝子の掛け合わせによっては知的障害になることがあります。しかし、家族に知的障害者がいたとしても、必ずしも子供に遺伝するとは限りません。
精神遅滞や知的障害の子供への適切な対応
子供の特性を理解する
知的障害と言っても、その症状や特性は一人ひとり異なります。共通点と言えば、日常生活に支障が出ていることと、他者からの支援を必要とすることでしょう。例えば、うまく話せない子にはジェスチャーや絵カードを使ってコミュニケーションを取る、衝動性が強くじっとしていられない子には気が散らないようにおもちゃなどを用意し環境を整えるなど、子供一人ひとりに向き合って対策を考えてみましょう。このように、精神遅滞や知的障害の子供の特性を理解したうえで、適切に対応することが大切です。
具体的な言葉でコミュニケーションを取る
精神遅滞や知的障害の子供とコミュニケーションを取るときには、できるだけ具体的な言葉で話しかけると良いでしょう。例えば、片付けをしてほしいときには、「机の上を片付けて」と指示を出すよりも「はさみをもとの場所に戻して」と、具体的に何をどうすればいいのかを説明します。もしも子供が指示通りに行動できなかった場合は、まずは指示をどう受け止めたのかを確認しましょう。意図が正しく伝わっていなかったら話し合いをして、正しい行動ができたら褒めてあげてくださいね。
ルールや規則をあらかじめ伝えておく
精神遅滞や知的障害の子供には、暗黙の了解のようなものが分からないことがあります。そのため、ルールや規則は、曖昧に伝えずに具体的な言葉で的確に伝えましょう。もしも、ルールの理解ができていない状態でルール違反をしたときに怒られてしまうと、保育士や先生に不信感を持つ場合があります。そういった不信感を予防するためにも、子供が理解できるまでルールや規則を説明してあげてくださいね。また、ルールや規則を破ってしまった時は頭ごなしに否定するのではなく、なぜそうした行動をとってしまったのか確認してみましょう。子供の主張を否定せずに聞いたうえで、理由を説明して、やるべきことを教えてあげるといいですね。
療育手帳を取得し適切な療育を受ける
精神遅滞や知的障害の子供への適切な対応として、療育手帳を受け取り、療育を受けることも挙げられます。療育手帳とは、障碍者手帳の一種で、18歳未満の子供が療育を受けるべきだと認められると交付される手帳のことです。この手帳があると、障害者手当を受け取ったり専門のサポートを受けることができますよ。また、療育とは障害者への発達を支援する取り組みのことです。療育の現場では、障害を持つ子供たち一人ひとりの発達の程度や特性に合わせたアプローチが受けられます。子供のできることを伸ばしたり、隠れた才能を見つけることができますよ。
療育手帳について詳しく知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。
保護者への心のケアも行い家庭環境を支援する
精神遅滞や知的障害の子供たちへの働きかけが重要なのはもちろんですが、保護者の心のケアや家庭環境の支援も同じくらい大切です。精神や知的な課題を抱える子供の保護者は、子育てについて悩んでしまったり、自分の育て方に責任を感じてしまったりすることが多々あります。子育てのやり方について一緒に考えてあげたり、悩みを相談されたときには寄り添う姿勢で傾聴しましょう。保護者の心のケアを行うことで、家庭環境の安定につながるため、子供がよりよい生活環境で過ごすことができますよ。
精神遅滞や知的障害の子供の心の健康を守るには
子供の自己肯定感を高める支援をする
精神遅滞や知的障害の子供の心のケアとして、子供の自己肯定感を高く保つことを意識した接し方が挙げられます。発達に課題がある子供たちの多くは、習得したことを応用することが困難な傾向です。そのため、何かに挑戦しても思うような結果にならない経験もたくさんしています。成功体験が積み重ねられないと挑戦する意欲が減少してしまいますよね。些細な成功体験だったとしても、保育士や保護者が沢山褒めてあげることが大切です。また、子供が得意とすることを一緒に見つけてあげて、自信につなげることも適切な対応と言えるでしょう。
まとめ
精神遅滞や知的障害の子供に寄り添った支援をしよう!
いかがでしたか?精神遅滞や知的障害は同義語で、どちらも精神や知的の発達に課題があることを示す言葉です。医学用語では精神遅滞という呼び方をすることが多く、学校など教育の場面では知的障害という呼び方をすることが多いですよ。精神遅滞や知的障害の子供たちが、生活のための知識を身につけたり、得意なことを見つけることができるように、周りの大人がサポートしてあげることが大切です。ぜひこの記事を参考にして、子供たちへの対応や心の健康を守るために、自分ができることについて考えてみてくださいね。