発達障害を持つ、またはその疑いがある子供への対応について、悩んだ経験のある保育士さんも多いのではないでしょうか。発達障害のある子供は、症状や特徴が一人一人異なるため、その子に合ったペースでフォローを行うことが重要です。また、保護者に対しては、丁寧な説明と支援の提案が必要です。この記事では、発達障害の種類や対応方法、加配制度の活用について詳しく解説しています。子供たちの個性を尊重しながら、適切にサポートするための参考にしてみてくださいね。
発達障害とは
生まれつき脳の働きに偏りがある障害のこと
発達障害とは、生まれつき脳の機能に偏りが生じる障害を指します。この影響で、社会生活が困難になったり、時にはうつ病や睡眠障害などの二次障害を引き起こすこともあります。しかし、発達障害はマイナスな側面だけではなく、特定の分野で優れた能力を発揮することもあります。例えば、計算が得意であったり、音楽に対して驚異的な才能を持っている場合もありますよ。発達障害は一人一人の特性や特徴が異なるため、その子に合わせた支援が必要です。そのため、保育士さんは子供の個性を尊重しながら、それぞれに合ったサポートを提供することが求められます。
発達障害の種類
自閉症スペクトラム症(ASD)
自閉症スペクトラム症(ASD)とは、言葉や視線、表情や身振りなどを使ったコミュニケーションが困難になる障害です。2013年5月に精神医学の診断基準が改訂され、それまで別々に扱われていた自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害が自閉症スペクトラム症に統合されました。コミュニケーションの困難さだけでなく、特定の分野で優れた集中力や能力を発揮できるといった特徴もありますよ。例えば、絵を描くことや数字に強い興味を持ち、それに対して驚異的な集中力を示す子供もいます。個々の強みを理解し、適切なサポートをすることが大切ですね。
注意欠如・多動性障害(ADHD)
注意欠如・多動性障害(ADHD)には以下のような特徴があります。
- 作業にミスが多い(不注意)
- 落ち着きがなく待つことができない(多動性・衝動性)
- 集中力が持続しにくい
具体的には、自身の不注意が原因となるミスが多く、また周りの人や状況に応じた柔軟な対応が苦手であることが挙げられます。しかし、自閉スペクトラム症と同様に、ADHDも自分の好きなことや得意なことに集中力を発揮できるといった長所がありますよ。自閉スペクトラム症の子供やADHDの子供には、好きなことを存分に伸ばしてあげられる環境を提供することが、とても大切ですね。
学習障害(LD)
知的発達に大きな問題が見られないにもかかわらず、読む、書く、計算するなどの特定の学習に困難を感じることを、学習障害(LD)と言います。子供によってその症状は様々です。例えば、ある子供は読むことが苦手で、また別の子供は計算に強い苦手意識を持つことがあります。注意深く観察を行わないと、単に勉強が不得意だと思われ、学習障害に気づかないケースも少なくありません。保育士さんは学習障害に関する知識を深め、読み書きが苦手な子供に合わせたカリキュラムを作成することが重要ですよ。例えば、読みが苦手な子供には、文字の代わりに絵を使って理解を助ける方法を導入するなど、個々の特性に合った支援が求められます。
発達性協調運動障害(DCD)
発達性協調運動障害(DCD)は、他の発達障害と併発することが多い障害で、神経発達障害の一種に分類されています。DCDを持つ子供は、複数の身体機能を同時に使う協調運動が極端に苦手なため、一般的に“不器用な子供”として見られがちです。しかし、いくら練習を重ねても運動スキルが向上しにくく、結果として子供の自己肯定感が低下してしまうケースも少なくありません。例えば、ボールを蹴るといった基本的な動作でも、DCDを持つ子供にとっては非常に困難で、友達と一緒に遊ぶ際に疎外感を感じてしまうことがあります。このような状況を避け、子供の自信を保つためには、個々の発達に合った療育が必要なのです。適切なサポートによって、子供が得意な分野で成功体験を積める環境を提供することが大切です。
コミュニケーション障害
コミュニケーション障害は、言葉を使ったやりとりに問題がある場合に診断されることがあります。具体的には、言語症、語音症、小児期発症流暢症(吃音)などが該当しますよ。これらの障害では、言葉の習得や使用、そして自分の思いや考えを言葉にすることが難しく感じられます。例えば、吃音は言葉に詰まったり、スムーズに話せなかったりする症状が特徴です。吃音には、生まれつきの発達性吃音と、ストレスや外的要因によって生じる獲得性吃音の2種類があります。子供の場合、多くは発達性吃音に該当し、成長と共に自然に軽減することもありますが、適切な支援が必要です。例えば、保育現場では子供が話すペースを尊重し、無理に早く話させないといったことが適切な対応と言えるでしょう。
グレーゾーン
発達障害の特徴が見られるものの診断基準に達していない、または診断を受けていない子供をグレーゾーンと言います。この状態にある子供が必ずしも軽い症状であるとは限りません。そのため、発達障害と診断された子供と同様の配慮や対応が必要になる場合があります。例えば、集団の中で指示を理解するのが難しい場合、個別に確認する時間を設けることが大切です。また、まだ専門機関を受診していない子供については、保護者と相談したうえで、必要に応じて専門機関での診断を勧めてみましょう。専門的な診察によって発達障害かどうかが明確になる可能性があります。
発達障害がある子供の困りごと
コミュニケーションが取れず孤立しやすい
発達障害のある子供は、コミュニケーションがうまく取れず孤立しやすい傾向です。なぜなら、言葉をうまく伝えられないため、自分の気持ちを適切に表現できず、トラブルが発生することが多々あるからです。例えば、「一緒に遊びたい」と思っていても、それを相手に伝えられず、結果的に他の子供との間に摩擦が生じてしまうことが挙げられます。また、自分の思い通りにならない場面でパニックを起こし、友達を叩いたり蹴ったりしてしまうこともありますよ。保育士としては、他の子供との衝突を未然に防ぎ、孤立を避けるための適切な支援が求められます。具体的には、子供同士が円滑にコミュニケーションを取れるよう、会話の橋渡しやルールの確認などを行うことが適切な支援と言えるでしょう。
二次障害が出てしまう
発達障害のある子供が、周囲から適切に理解されないことで、自己肯定感の低下やストレスを感じることがあります。例えば、学校で「何度教えてもできない」と叱られる経験を繰り返すと、子供は「自分はダメなんだ」と思い込んでしまうことがあります。こういった体験は、後に二次障害を引き起こす原因となり、うつ病や引きこもり、睡眠障害などが現れると言われています。特に、これらの二次障害は幼少期には目立たなくても、年齢を重ねるにつれて顕在化することが多いです。そのため、保育士や周囲の大人が早い段階で子供の特性を理解し、適切なサポートを行うことが重要です。
感覚が鋭くて過敏
発達障害の子供の中には感覚が非常に鋭く、過敏な反応を示す子供もいます。例えば、衣類のタグが肌に触れるだけで強い不快感を覚えたり、大きな音や特定の音が鳴るとパニックに陥ることもあります。また、こうした感覚過敏からくる苦手な刺激を避けようとするあまり、自分から活動に参加せず、友達とのコミュニケーションがうまく取れない場合もあります。しかし、この感覚の鋭さは、こうした課題だけではありません。例えば、細かい音の違いに気づいたり、触感に優れているため、アートや音楽などの分野で才能を発揮することがあるのです。感覚の過敏さを理解し、その子供に合ったサポートを提供することが大切ですね。
発達障害がある子供への保育園の対応
発達障害のことを理解する
まずは、発達障害についてしっかりと理解することが大切です。例えば、発達障害に関する専門書を読んだり研修に参加して、どのようにサポートすることで子供がストレスを感じにくくなるかを学ぶことが有効です。発達障害への理解を深め、実際に子供と向き合う際に適切な対応を考えることで、より質の高い保育を提供できるようになるでしょう。結果的に、保育士としてのスキルアップにもつながります。
子供の特性に合わせた指導をする
その子供の特性に合った適切な支援を行うためには、日常的に子供と積極的に会話し、好きなことや得意なことをしっかり観察して見極めることが大切です。例えば、工作が得意な子供には、個別に制作活動を取り入れるカリキュラムを考えてあげると良いでしょう。発達障害を持つ子供が、全員と同じカリキュラムをこなすのが難しい場合もありますので、その子に合った学習や遊びの計画を作成することが必要です。また、必要以上の手助けは避け、子供の自主性を尊重しましょう。発達障害には、得意なことに強く集中できるという特性があるため、その子の得意分野を伸ばす環境を整えることが重要ですよ。
できなかったりうまく伝えられなくても怒らない
発達障害を持つ子供は指示を理解するのに時間がかかり、活動がスムーズに進まないことがあります。こういった場面において、保育士は焦ったり感情的に怒るといった対応は避けましょう。他の子供たちと比べて活動が遅れてしまうことに焦りを感じるかもしれませんが、ここは冷静に対応し、その子のペースに合わせてサポートすることが大切ですよ。また、発達障害の子供は、情報の受け取り方が異なる場合があります。例えば、「おもちゃを棚に戻す」という指示がわかりにくい場合には、図やイラストを使って視覚的に説明することが有効です。その子に合った情報伝達の工夫を行い、混乱を避けるようにしましょう。
保護者と連携する
発達障害を持つ子供は症状に個人差があり、同じ診断名でも一人一人異なる特性を持っています。そのため、保護者に子供の苦手なことや家庭での過ごし方について詳しく聞き、それを指導に役立てると良いでしょう。園での子供の様子や対応についても、具体的に保護者に伝えることが重要です。また、保護者から子育てに関する相談を受けることもあるかもしれません。例えば、連絡帳を使って子供の状態や対応について細やかに情報を交換し、保護者とのコミュニケーションを大切にしましょう。このようにして、保護者の不安を解消し、信頼関係を築くことが保育士の役割です。日頃から積極的な情報共有を心がけてくださいね。
発達障害が疑われるときの対応
園長や地域の関連機関に相談する
子供に、発達障害の疑いが懸念される行動が見受けられた場合は、まず先輩保育士や園長に報告し、園内で情報を共有することが大切です。その後、地域の関連機関に相談し、専門的なアドバイスを受けることをお勧めします。なぜなら、発達障害の診断は専門機関で行うべきであり、保育園側が自己判断で誤った診断を下してしまうと大問題になる可能性があるからです。もし発達障害の可能性が高いと判断された場合には、保護者に家庭での様子を詳しく伺いましょう。この際、発達障害の可能性を伝える時には慎重に、かつ配慮深く接することが重要です。保護者が受け入れやすいように、適切なサポートを提案しながら進めましょう。
発達障害が疑われるときの保護者への指摘方法
ショックを与えないような伝え方をする
発達障害の可能性を保護者に伝える際には、必ず配慮を持って丁寧に説明することが重要です。ポイントとしては、障害名を明言せず、責めるような言い方を避け、保護者の気持ちに寄り添うことです。まずは、子供の園での様子や、日頃の保育園側の具体的な対応を説明し、専門機関へ相談することをすすめましょう。発達障害を持つ子供の親は様々な悩みを抱えていることが多いため、その気持ちに共感しながら話を進めることが、信頼関係を築く鍵となります。
保育園の加配制度について
個別に配慮が必要な子供に対して専門の先生をつける
保育園には加配制度という制度があり、特別な配慮が必要な子供に対して、専門の保育士を追加で配置することができます。加配を受けるためには、保護者が自治体に申請する必要がありますが、その申請条件や審査基準は自治体によって異なる場合があります。そして、園に配置された加配保育士は、個別支援計画を作成し、子供一人一人に合わせた支援を行います。また、加配保育士は子供への支援だけではなく、保護者へのサポートも行いますよ。具体的には、子育てに関する相談に応じたり、保護者が抱える悩みに対してアドバイスを提供します。
まとめ
発達障害についての理解を深めよう
いかがでしたでしょうか。保育士が発達障害についての知識を持つことは非常に大切なことです。まずは発達障害の特性を理解し、子供一人一人に対して真摯に向き合いましょう。そして、子供に合ったペースで寄り添いながら指導を行うことで、子供が過ごしやすい環境を提供できますし、保護者も安心できます。また、保護者との連携も欠かせません。保護者と定期的に情報を共有することで、子供の状態に応じた保育が可能になりますし、保護者との信頼関係も築けます。発達障害の子供が快適に過ごせるように、適切な環境作りをしましょう。