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保育士への新たなルート?何がいつ変わるの?
平成29年10月1日時点での待機児童数は55,433人で、ちょうど1年前の平成28年10月1日より7,695人増加しました。平成29年10月時点の保育園等の待機児童数の状況について:厚生労働省子ども家庭局保育課
待機児童解消に向けて、数々の対策を打ち出してきた政府ですが、その効果はなかなか現れていないように感じられます。
その待機児童問題と深い関わりを持つ保育士不足への対策が、所管である厚生労働省の主導で検討され始めています。
保育士資格取得に関する新たな取り組みが2018年度から採用される見通しになっているのです。
今回は、規制緩和策ともいえる、この制度改正について徹底リサーチしました!
この改正によって、何がいつどう変わるのか?
それによって、生じると予測されるメリット・デメリットは?
この改正は、保育業界にとってどういう意味を持つのか?といった事を詳しくご紹介します。
制度改正のあらまし
平成29年(2017年)5月24日、「福祉系国家資格所有者等の保育士資格取得への対応について」という文書が、保育士養成課程検討会から発表されました。
“保育人材確保に向けて”を目的とし、 “他の福祉系国家資格保有者の保育士国家資格取得への対応”をするというのが、主な内容です。
具体的には、他の福祉系国家資格保有者が保育士試験を受験する際に、試験科目の一部免除を行うなど、受験しやすくなるよう改善することで、保育士資格取得を後押しする政策になっています。
他の福祉系国家資格とは、「介護福祉士」、「社会福祉士」、「精神保健福祉士」の3資格で、これらの資格保有者が対象になります。
福祉系国家資格者の養成課程において、福祉の基礎に関わる部分は既に習得しているので、この内容に共通する試験科目の受験を免除するというのが、具体的な改正案です。
この改正は平成30年1月15日に施行され、平成30年4月27日に通知されました。
「保育士試験の実施について」の一部改正について:厚生労働省子ども家庭局長
福祉資格を持つ保育士のメリットは?
この改正案、既に、対象となる介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士の資格を取得しており、今後保育士の資格も取得したい人には、吉報だと思われます!
国としては将来、医療・福祉のプロを育成する教育課程と、保育士養成の教育課程に共通のプロセスを設けて、マルチに活躍できるエキスパートを育てる方針なのかも知れません。
この改正も一時的な措置で、“2021年度には、医療分野も含めた、さらなる改革が起きる”とも言われています。
現在は福祉の仕事をしているけれど、保育の仕事にも興味があるという人や、勤務する福祉施設には子どももいるので保育士の資格も欲しい、という方には、保育士資格への門戸が少し広がることでしょう。
反対意見も…?予想されるデメリットは?
今回の改正について、どの業界も諸手を挙げて賛成…というわけではないようです。
保育士からの視点
保育関係者へのあるアンケート調査(※)によると、今回の改正に関して反対という人の数が賛成をわずかながら上回ったようです。
その理由としては…
- 資格取得が容易になれば、保育の質が低下する
- 本来、対象の3福祉士と保育士とは全く別物
- 保育士の人材確保にはつながらない
といった意見があるようです。
よく似た分野とはいえ、やはり介護と保育は違うので、介護職からの人材流入で保育のクオリティーが保てるのかが心配といった声があります。
アンケートに回答された方の声をご紹介します。
潜在保育士・20代女性
福祉という点では同じ分野と思われるが、専門性からしても介護と福祉は全く別物だと思う。ただでさえ、業務が沢山ありたいへんなのに、保育をあまりわかっていない方が入ってこられても、人材不足は解消されるかも知れないが、指導などで逆に仕事が増えそう。
介護職からの視点
一方、介護職の方は賛成の方が反対の倍以上と、おおむね歓迎されているようです。
職業選択の幅が拡がるのはいいこと、という意見が大半のようですが、反対意見もあるようです。
- 介護職と保育士は違う仕事
- 介護職の人材が減ってしまわないか心配
保育士の数が足りないのは、過酷な労働に見合う収入や待遇が無いからで、この改正で保育士不足解消は望めないのでは?と警鐘を鳴らす関係者も多いようです。
介護職の方の反対意見もご紹介します。
介護福祉士、社会福祉士、保育士・40代女性
介護は受容。認知力や筋力が衰えた方々を専門知識と経験で見守り受け入れること。保育は養護。心身の成長に合わせた専門的知識と倫理観で導いて可能性を伸ばすこと。諭すこと。視点が全然違う。
賛成意見!期待とメリット
もちろん、賛成意見も多数あります。
保育士からの視点
保育職の方でこの改正に賛成なのは、5割弱、その賛成の理由としては…
- 職業選択の幅が拡がるのはいいこと
- 保育士の人材不足解消に役立つ
といった事が多いようです。
期待含みの賛成の声をご紹介します。
保育士・40代女性
保育士は、意外と保育士しかしたことがない人が多く、他業種の人が入ってくることで目線や考え方など刺激を受けることも多いと思う。
介護職からの視点
介護職では7割強の方が賛成と回答しています。
保育職と同じような賛成意見がある中、こういった意見もありました。
- 保育士として働ける自信があるから
- 将来のキャリアに不安があるから
介護職の方の中には、保育にも関心があり尚且つそれなりに自信もあるという人も少なくないようです。
体力的にキツイ介護から、保育へ転職できるのでは?という期待も含まれるようです。
初任者研修・30代男性
子ども好きだが現在の資格では障害者支援にしか活用できない為、裾野を広げるチャンスにはなると思うが…男性なのでどこまで受けられるか不安もある。
もし資格制度が変わったら…?新たな保育施設の登場?
今回の改正を含め、福祉関連の資格取得に関する規制緩和が進むことで、複数の資格を持つ保育や介護のエキスパートが養成されれば、施設自体も変わっていくのではないでしょうか?
宅幼老所
「宅幼老所」という耳慣れない名前の施設が少しずつ増えています。
平成25年1月の厚生労働省の「宅幼老所の取組」によると、宅幼老所とは、「小規模で家庭的な雰囲気の中、高齢者や障害者、子どもなどに対して、一人ひとりの生活リズムに合わせて柔軟なサービスを行う取組」と定義されています。
デイサービスやショートステイ、訪問介護やグループホーム、さらに乳幼児預かり保育といった各サービスを、地域や施設で柔軟に提供していくということです。
こういった地域共生の施設は今後も増えていくことが予想されますが、課題もあるようです。
介護士や福祉士、保育士など専門職の人材を確保するのが難しいのではという問題点。
さらに、感染症のリスクも懸念されます。
子どもは発育の途上で、よく感染症にかかります。
子ども自身はそのことによって抗体を獲得し、免疫力を高める効果がありますが、それは、高齢者にとっては、集団感染の危険性が看過できないリスクになります。
宅幼老所の具体例を挙げると、兵庫県にある施設は、訪問介護・無認可保育園として開設。
デイサービス(通所介護)も行っておられる施設で、「子どもとお年寄りの交流を通じて生きがいを高めたい」をモットーにした宅幼老所なのだそうです。
これからの福祉と保育はどうなる?
超高齢化社会の到来が現実味を帯びてきた昨今、ベビーブームに生まれのいわゆる「団塊の世代」が後期高齢者になることで注目される2025年問題など、福祉を取り巻く環境も変化を求められる状況です。
医療と福祉が連携するのはもちろん、今後、福祉と保育、そして教育も含めた複合的な取り組みが必要になるのかも知れません。
そんな中で保育士はどうあるべきなのか?
宅幼老所が増えていくとすれば、保育士の役割とは?
先程、宅幼老所のリスクについて触れましたが、そうしたデメリットも踏まえた上で、高齢者や障害者、そして子どもたちが交流することで生きがいや癒しを感じ、思いやりや助け合いの心が生まれるメリットは大きいのではないでしょうか?
保育士さんを取り巻く環境は、これから大きく変わっていくことが予想されます。
ずっと子どもだけと関わっていくのか、保育士資格を活かし、新たに介護福祉士資格を取得することで、お年寄りや障害者との共生施設である宅幼老所にシフトするのかは、これからの世の中とあなたの選択にかかっています。
(※)参考にしたアンケートの調査概要
保育職
実施期間:2017年7月1日~7月15日
実施対象:保育園経営者・園長(5%)・保育士/正規職員(41%)・保育士/パート・アルバイト(17%)・保育士資格取得見込(インターン・学生)(7%)・その他の保育関連職(保育士資格保有者)(8%)・元保育士/潜在保育士(8%)・その他(14%)
回答者数:155人(平均年齢:35歳)
男女割合:女性/94%・男性/6%
介護職
実施期間:2017年7月10日~7月13日
実施対象:介護福祉士(79%)・初任者研修(ヘルパー2級)(40%)・実務者研修(ヘルパー1級)(14%)・ケアマネージャー(10%)・社会福祉士(7%)・精神保健福祉士(1%)・無資格(1%)・その他(13%)・回答者数:91人(平均年齢:39歳)
男女割合:女性/78%・男性/22%