子どものワーキングメモリーを伸ばすトレーニングとは?【低い・原因・鍛える・遊び】

子どもと生活する中で、「言ったことをなかなかやってくれない」「ミスや忘れ物が多い」などと感じたことはありませんか?もしかするとその原因は、子どものワーキングメモリーが低いことにあるかもしれません。もし子どもが、ワーキングメモリーの低さによって何か困難を感じているのであれば、早期に発見し改善してあげたいですよね。今回の記事では、子どものワーキングメモリーを伸ばすために、保育者が理解すべき内容について解説していきます。ぜひ、要点を押さえておいてくださいね!

ワーキングメモリーとは

一時的に情報を記憶する脳の認知機能

ワーキングメモリーとは、短期記憶に分類される脳の認知機能の一部になります。作業記憶や作動記憶などの別名をもつ、作業に必要な情報を一時的に保存・処理する能力のことです。脳内で情報の取捨選択・処理を行う際には、短期記憶のみでなく長期記憶の情報とも関連付けながら、問題解決や意思決定を行っているようですよ。また、ワーキングメモリーで一時的に記憶していた情報は、繰り返し入ってくることで脳が重要性を認識し、長期記憶へと変化します。短期記憶を反復することによって長期記憶へつなげるという学習の基の部分がワーキングメモリーといえるでしょう。

異なる4つの要素で構成されている

ワーキングメモリーを構成する4つの要素と、その使用例をご紹介します。

①音韻ループ(音情報の記憶・処理)
例:取引先からの電話で、内容を一時的に音声で記憶しながらメモをとる。

②視空間スケッチパッド(視覚情報の記憶・処理)
例:授業で、板書の図をノートに書く。

③エピソードバッファ(音や映像など複数の情報を組み合わせた記憶)
例:レストランで食事したときの匂いや味、店内の情景や友人と話した内容などを
思い出しながら自宅で日記にまとめる。

④中央実行系(上記3つにつながり、指示を出す)
例:先生から同級生宛てに複数の伝言を頼まれたが、手元にメモがない! 
即座に対応策を考え、決定した。
先生が要件を話している最中に脳内で復唱し、教室に戻ってからメモに書いた。

知能検査によって計測が可能

子どものワーキングメモリーは、WISC-Ⅳ(ウィスク・フォー)という知能検査を受けることで高さを測ることができます。WISC-Ⅳは、ウェクスラー式知能検査とよばれる日本で最も多く使われている知能検査の1つで、世界的にも広く使用されています。WPPSI(幼児用)WISC(児童版)WAIS(成人用)の3種類に分かれているため、受検者の年齢に応じた検査を受けさせましょう。子どもの発達に悩みがある場合には、早めに検査へ連れて行き、検査結果から最適なサポートプランの構築につなげることが大切ですよ。

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ワーキングメモリーが低い子どもの原因は?

発達障害や遺伝など複数の要因によるもの

子どものワーキングメモリーが低い場合、1つだけではなく複数の要因が関係して困難を引き起こしていることが考えられます。発達障害や発達の遅れ、遺伝的要因などが関連していたり、学習障害や睡眠障害など、さまざまな障害の併発に関係している可能性もあるでしょう。複数の要因が複雑に絡み合っている場合、原因の特定は難しくなりますが、知能検査を受けることである程度推測できるようになる場合があります。

睡眠不足やストレスによる一時的な低下

ワーキングメモリーが特段に低くはない場合でも、十分な睡眠や栄養がとれていないことや、運動不足が原因で一時的に低下してしまうことがあります。また、ストレスなどの精神的な疲れや苦痛が、一時的なワーキングメモリーの低下につながることもあるようです。大人に比べて子どもは、比較的困りごとなどを素直に口にする子が多い印象ですよね。しかし、中には相談できずに1人でストレスを抱え込んでしまっている子がいるかもしれません。保育者である大人が、適度に相談に乗ったり、一緒に遊びやスポーツを行ったりして、子どものストレスをできるだけ解消してあげてくださいね。


【子どもの推奨される睡眠時間】
0歳→約14~15時間    1歳→約14時間     3歳→約12時間

子どものワーキングメモリーが低いとどうなるか

指示の内容の理解や実行が難しい

ワーキングメモリーが低い子どもは、指示を受けた際に内容を理解したり、意図を汲み取って行動に移したりすることに困難を感じやすいです。特に、1つだけでなく複数の指示を受けた際には、脳内で指示内容の優先度を判断することが難しく、頭がパンクしてしまう可能性が高いでしょう。ワーキングメモリーの低い子どもへ指示を出す際には、一度に大量の指示を出すのではなく、内容を分かりやすく書き出して提示するのがおすすめですよ。

忘れ物が多い

ワーキングメモリーの低い子どもは、脳の記憶できる容量が少ないことで、忘れ物をしてしまう回数が多くなりやすいです。忘れ物対策として、メモをとる習慣を子どもに身につけさせたり、持ってくる物の指示をゆっくりと繰り返し確認したりするようにしましょう。何度も忘れ物をしてしまうことで不快感を感じたり、自分自身を責めたりしてしまう子どももいます。先生や保護者の方は、忘れ物の多い子どもを一方的に責めたり、強く叱ったりすることのないようにしてくださいね。

作業のミスや誤字脱字が多い

ワーキングメモリーが低いことで、最初の方に受けた指示や作業の内容を忘れ、作業中に多くミスをしてしまうことがあります。また、忘れた内容を思い出そうとしながら作業を進めれば処理速度が低下することも考えられます。学習においては、誤字脱字のような支障が出てしまうこともあるので、就学前にミスを減らす対策を行うのがおすすめですよ。作業する内容のメモをあらかじめ取っておき、小さなタスクを終えるごとによく確認するように、子どもに声掛けをしましょう。

読み書きや計算が難しい

ワーキングメモリーの低さは、文字の読み書きや計算などの困難につながり、学習面にさまざまな支障をきたすケースが多いです。例えば、読み書きや計算の際に重要となる、直前までの作業を記憶しておく力。ワーキングメモリーが低い子どもはこの力が弱いため、直前まで何をしていたか、次に何をするべきか等の把握が困難になってしまいます。作業が停滞することで、焦って先読みをしてミスを連発したり、学習へ強いストレスを感じたりするでしょう。以降の項目でワーキングメモリーを伸ばすための遊びやトレーニング方法をご紹介しているので、就学前から子どもと一緒に取り組んでみてくださいね!

ワーキングメモリーを伸ばすトレーニングは?

ポジティブなことを考える

楽しいことや明るく前向きなことを考えることでワーキングメモリーを鍛えることができます。実際の研究においても、ポジティブな出来事に直面した際に、ワーキングメモリーに関わる脳の領域が活性化されるという結果が出ていますよ。保育者は、会話を通して子どもに楽しいことを思い出させたり、将来に対して前向きな考えを持たせたりしましょう。また、日常的に子どもの良さを見つけて褒めたり、マイナスなこともプラスの表現に言い換えたりするのがおすすめですよ。子どもがポジティブな思考を身につけることは、ワーキングメモリーを鍛えるのにとても効果的です。保育者は、子どもに対して前向きな働きかけを行ってくださいね!

イメージングを繰り返す

ワーキングメモリーを鍛えるためには、イメージを思い浮かべる機会を増やすことも重要です。イメージングを通して、思い出すきっかけとなる情報をもとに繰り返し想像をふくらませることで、次第にワーキングメモリーが増強されるでしょう。例えば覚えるべき重要な単語は、文字のままで覚えようとせず、一度頭の中で映像としてイメージをすることでワーキングメモリーの増強につながります。保育者は、子どもに映像を思い浮かべる・思い出す行為を繰り返し行わせることで、ワーキングメモリーを鍛えてあげましょう!

幼い頃から鍛え始めるとより効果的

ワーキングメモリーは、幼い子どもの時期から鍛え始めることで、より効果的に伸ばすことができますよ。小学校入学後には本格的な勉強がスタートし、ワーキングメモリーの低い子どもは学習面で苦しさを感じることも増えてくるはずです。学習では、覚えるべき内容を復習によって繰り返し頭に入れることで、脳に重要性を認識させ、長期記憶へとつなげていきます。子どもの本格的な学習の開始に向けて、保育者は就学前から子どもに復習する習慣を身に着けさせるようにしましょう。

子どもの短期記憶を鍛える遊び集

暗記が求められるアプリやゲーム

子どもの短期記憶を鍛えるには、暗算や暗記などが求められるゲームを行うと効果的です。最近ではゲーム機の他に、子どもでも楽しく脳トレができるスマホアプリなどが複数出ているので、いくつか試してみると良いでしょう。ナンプレ(数独)やトランプの神経衰弱、カルタ、ループコース、足し算クロスなど、短期記憶を必要とする遊びは多くの種類がありますよ。ワーキングメモリーの低い子どもは、苦手意識を持っている子が多いはずです。ぜひ、ヒントやハンディを取り入れるなどして、子どもが喜びや達成感を感じながら取り組めるよう工夫しましょう。

デュアルタスクの遊び

デュアルタスクとは、2つの以上のことを同時に行う取り組み方のことです。運動をすることによって、身体を動かすために必要な脳の部分を活性化させながら、さらに課題達成のための思考を行い、脳の認知機能を向上させます。例えば、「歩きながらしりとりをする」「メモを取りながら会話をする」「足踏みや手拍子をしながら歌を歌う」などが挙げられるでしょう。ワーキングメモリーが低い子どもにとっては最初は難しく感じるかもしれません。しかし、慣れてくると脳の情報整理力は向上し、作業効率も上がるはずですよ。ぜひ、諦めずに取り組ませてみてくださいね!

逆さま言葉クイズ

逆さま言葉クイズとは、単語や文が逆さまになった言葉を見て、正しい状態に戻す遊びです。逆さ言葉の文字を頭に入れながら、さらに逆さまにして正しい言葉に直す過程で、短期記憶を活用するトレーニングになります。最初は「びれて(テレビ)」や「わんで(電話)」など、3文字程度の簡単な物の名前から、音情報のみで出題してみましょう。慣れてきたら次第に文字数を増やしたり、正しい物の名前を逆さ言葉にする練習をしたりしてみてくださいね!

後出しじゃんけん

後出しじゃんけんとは、相手の出した手を見た後で、それに勝てるような手を考えて出すじゃんけんの遊び方です。視覚情報として相手の手を認識し処理する力や、勝てる手を判断する力が求められ、情報処理能力や判断力のトレーニングとして効果的です。慣れてきたら「負けて」や「勝って」などの指示を音情報で加えたり、「勝った後に負けて」などと連続して指示を出したりしてみましょう。「後出しじゃんけん・じゃんけん・ポン(先生や親が出す)・ポン(子どもが出す)」の掛け声で楽しみながら鍛えられるといいですね。

絵本の読み聞かせ

登場人物を思い出しながら話を聞いたり、与えられた情報から映像や展開をイメージしたりする、絵本を使ったトレーニングです。ワーキングメモリーが低い子どもにとって、登場人物の名前や特徴を覚えておくことは難しく感じるかもしれません。しかし、トレーニングを繰り返していけば、短期記憶力や想像力は向上していくはずですよ。保育者の方々は、ぜひ、保育園でのお昼寝前や家での夕食後、就寝前の時間などに積極的に取り組んでいきましょう。

外遊び

外で遊ぶことによって、たくさんの自然や刺激的な事象に触れることができ、認知能力や短期記憶を向上させることが期待できるでしょう。例えば、遊具の色や形に注目しながら会話をしたり、雪や花、落ち葉など自然の素材を使っておままごとをしたりするなどが効果的です。また、かくれんぼやおにごっこなどの身体をたくさん動かす遊びは、運動能力や記憶力の向上に役立つと言われています。近年は室内でスマートフォンを使って遊ぶ機会も増えていますが、デジタルデトックスとして外で遊んでリフレッシュをすることも大切ですよ。

まとめ

子どものワーキングメモリーについて理解しよう

いかがでしたか?ワーキングメモリーが低いと、他の子に比べて困難を感じたり、自己肯定感が低下したりすることが多くなりやすいようです。しかし、効果に個人差があったり、まだ研究段階だったりするものの、ワーキングメモリーはある程度鍛えて伸ばすことが可能です。ワーキングメモリーの低さを自覚できず苦しんでいる子どものために、先生や保護者の方が知識を身につけ、早期に気付いて対処してあげましょう。

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保育士くらぶは保育士の転職キャリアサポートを行うアスカが運営しています。保育士くらぶ編集部のメンバーは元保育士や幼稚園教諭出身のメンバーを中心に「保育業界をもっと良くしたい!」という思いがあるメンバーが在籍し、日々執筆しています。保育士くらぶでは現役保育士さんが職場で活かすことが出来る、保育のノウハウやネタ、保育学生にとって必要な知識などを発信しています。 アスカは保育士の就職支援を行う会社です。1994年創業。全国で約10万名の保育士、幼稚園教諭の皆さまが登録しています。年間約1万名がアスカを通じて保育園や幼稚園、学童などの施設への就職を決めています。 保育士の求人情報は 【保育求人ガイド】 https://hoikukyuujin.com/ プロフィール入力で園からスカウトを受ける 【保育士スカウト】 https://www.hoikushiscout.com/