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近年,発達に課題のある子どもが増えているということがよく言われており,発達障害に関する認知度も昔と比べてかなり高くなってきました。子どもの発達に大きな影響を持つ保育士さんも「発達障害についてよく知っておきたい!」と思っている方が多いのではないでしょうか?そこでこの記事では,発達障害について,種類,症状や特徴,子どもとの接し方,支援と治療などについて幅広く徹底解説していきたいと思います!
発達障害とは?
脳機能の偏りによる生まれつきの特性
発達障害とは,生まれつきの脳の働きが偏っていることにより幼少期のうちから生じる行動・情緒面の特徴のことを言います。より具体的には,本人の特性(得意・不得意の極端な凸凹)と周囲の環境や人の接し方がうまくかみ合わないことで子どもが「生きづらさ」・社会生活上の困難を抱える状態のことです。ひとえに発達障害といっても,症状の中身や程度は個人差が大きく,一人一人の特性に適したサポートを行うことがとても重要です。
発達障害の種類は?
自閉症スペクトラム障害(ASD)
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは,社会的コミュニケーションの障害や興味の偏り,強いこだわりがあるなどの特徴がある発達障害です。かつては自閉症やアスペルガー症候群,広汎性発達障害などと呼ばれて診断名が分かれていたのですが,「DSM-5」という精神疾患の診断基準・診断分類のマニュアルにおいて「自閉症スペクトラム障害」に統合されて今に至ります。
ADHD(注意欠如・多動性障害)
ADHDは,不注意(集中力が続かない・注意がそれやすい),多動性(落ち着きがない),衝動性(何かを思いつくと衝動的に行動してしまう)などの症状がみられる発達障害です。以前は注意欠陥・多動性障害と呼ばれていましたが,DSM-5以降は「注意欠如・多動性障害」という診断名になりました。不注意が優勢タイプ,多動性・衝動性が優勢タイプ,混合タイプなど症状の表れ方には個人差があります。
学習障害(LD)
学習障害(LD)は,全般的に知的発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった学習に必要な基礎的な能力のうち、一つないし複数の特定の能力についての習得や発揮に困難が生じることで、学習上、様々な問題に直面している状態のことを言います。タイプとしては,読字障害(ディスレクシア)、書字障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュリア)の3つに分かれます。
発達障害の子どもにみられる行動の特徴(※あくまでも一例です)
自閉症スペクトラム障害(ASD)
• 言葉が遅い
• 一人遊びが好き
• 他の子への興味が薄い
• 同年代の友達とうまく遊ぶことができない
• 名前を呼んでも振り向かない
• 自分のルールへのこだわりが強い
• 一つのことに熱中しまわりが見えなくなる
• 表情が乏しい
• 音や光,痛みやにおいなどに敏感または鈍感
• 目が合いにくい
• 同じ動作や遊びを繰り返す
• 一緒に見てほしいものを指し示すのが難しい
• 抱っこや触られるのを嫌がる
ADHD(注意欠如・多動性障害)
• 忘れ物やなくし物が多い
• 話しかけても聞いていない
• 約束などを忘れてしまう
• すぐに気が散ってしまう(注意が続かない)
• ケアレスミスが多い
• 課題や遊びなどを途中でやめてしまい,やり遂げることができない
• 順序立てた作業や整理整頓ができない
• コツコツやる必要がある作業(勉強など)を避けたり、いやいや行う
• 手足をそわそわ動かしている
• 授業中などに席を離れて歩き出してしまう
• じっとしていられない
• 不適切な状況で走り出す
• 静かにできず,おしゃべりを続けてしまう
• 質問が終わる前に答えてしまう
• 順番を抜かしてしまうなどルールを守るのが苦手
• 友だちのしていることをさえぎる
学習障害(LD)
読字障害(ディスレクシア)
・形態の似た字である「わ」と「ね」、「シ」と「ツ」などを理解できない
・小さい文字「っ」「ゃ」「ょ」を認識できない
・文章を読んでいると、どこを読んでいるのかわからなくなる
・飛ばし読み、適当読みをするなど文章をスムーズに読めず、読み方に特徴がある
・音声にするなど耳から情報は理解しやすい場合が多い
○○
書字障害(ディスグラフィア)
・鏡文字や雰囲気で「勝手文字」を書く
・誤字脱字や書き順の間違いが多い
・黒板やプリントの字が書き写せない、時間がかかる
・漢字が苦手で、覚えられない
・文字の形や大きさがバラバラになったり、マス目からはみ出したりする
○○
算数障害(ディスカリキュリア)
・簡単な数字、記号を理解しにくい
・繰り上げ、繰り下げができない
・数の大きい、小さいがよく分からない
・文章問題が苦手、理解できない
・図形やグラフが苦手、理解できない
発達障害の原因は?
遺伝的な要因
発達障害には,親から受け継がれる遺伝子が関わっているとされています。しかし,遺伝子だけでは説明できないような事例(一卵性双生児の片方が発達障害だったが,もう片方はそうではなかったなど)もあることから,遺伝的な要因のみによって発達障害が引き起こされるというわけではなさそうです。
環境的な要因
環境化学物質や偏った栄養,早期出産や高齢出産,感染症や病気などの妊娠中や出生後に外から受ける様々な刺激が発達障害に関わっているのではないかという話もありますが,具体的にどのような外的要因によるものなのかということはわかっておらずさらなる研究が必要とされている状況です。ですので,環境的な要因についてもまだまだ不確定な部分が多いというのが現状だということができるでしょう。
原因はまだまだわからないことだらけ
発達障害には遺伝的な要因や環境的な要因が関わっており,それらが相互に影響しあった結果脳機能に偏りが生じる可能性も指摘されていますが,具体的な原因やメカニズムはわかっていないのが現状です。ただし,決して親の育て方や愛情不足が発達障害を招くわけではないことは理解しておいてほしいところです。
「この子発達障害かも…」と思ったら?
子どもの様子を観察・記録して理解する
まずは子どもの様子を観察して記録に残すことから始めます。そしてその際には,子どもの行動だけでなく保育者の関わり方(どのような関わり方がうまくいったかどうかなども書くとなおよい)も記録するようにするようにしましょう。記録に残しておくことは,今後の子どもへの対応を考えたり他の保育者に接し方についてアドバイスする上でも大変役に立つので普段から心がけておくといいでしょう。
園内で共有・相談して対応を考える
十分に記録が取れたら,その記録の内容をもとに主任や園長などと話し合うようにしましょう。独断で進めてはいけません。今後の対応や方針について考えを一致させ,園全体で共有しておくようにします。子どもへの具体的な対応方法については,その子の特性や発達のレベルに合ったアプローチを考えることが必要不可欠です。
子どもの様子について保護者に伝えて相談する
保護者に話す際には,園での子どもの様子をその時の対応も含めてなるべき具体的に話します。その際には,その子の家庭での様子も聞いておき,保護者と保育士の見解の違いについても理解し保護者と連携して子どもを見守れる土台を整えておくようにしましょう。また,疑われる発達障害の名称について明言したりするのは避け,保護者の気持ちに寄り添いながら慎重に対応していくことが重要です。子どものポジティブな変化や効果的な接し方についても伝えられるようにしておくとよいでしょう。
必要な場合は専門機関に相談する
対応に困った場合には専門機関へ相談するのもありです。相談できる機関には例えば以下のようなものがあります。
- 保健福祉センター
- 自治体の障害福祉課
- 児童相談所
- 発達障害者支援センター
- 療育機関
発達障害の子どもとはどう接すればいい?
不用意に叱らず子どもに寄り添って理解する
まず大事なことは,不用意に叱らずに子どもに寄り添って理解することです。例えば,泣き止まない子がいたとして,その場で「泣き止みなさい!」「静かにしなさい!」などと叱っても逆効果です。子どもが泣いたり,癇癪を起こしてしまった場合には, 他の子がいる前ではなく2人きりになってから,なぜそのような行動に至ったのか原因を子どもの話を聞きながら考えるようにするといいでしょう。普段から子どもと対話したり行動を観察することによって,どのような場面で子どもがパニックになるのかということを把握し,事前に配慮できるようにしておくといいですね。
子どもの気持ちを言語化してあげる
発達障害の子(発達障害の子に限ったことではありませんが)は特に自分の行動や気持ちの理由を説明できない場合が多いので,気持ちを受け止めたうえで言語化してあげることが大切です。例えば,周りの子と喧嘩になった場合には,うまく友達と意思疎通ができるように「なぜ怒ってしまったのか?」「何をしたいのか」「何をしてほしいのか」などの子どもがうまく言葉にできない部分を言語化できるようにしてあげるとよいでしょう。そのうえで必要とあれば,周囲の人たちに子どもが思っていることやしてほしいことを代わりに伝えてあげるようにしましょう。
その子に理解できる伝え方をする
発達障害の子どもは,情報の受け取り方が他の子と異なる場合が多くありますので,その子が理解できるような情報の伝え方をしてあげることがとても重要です。例えば,耳からの情報処理が苦手な子で聞き間違いがあったり,長い話を理解できない,複数の情報が入ると混乱するなどの困りごとがある場合には,図やイラストで視覚的に情報を伝えたり一つ一つはっきりと端的に伝えるなどの工夫を行い,子どもが理解できる情報伝達を行うようにしましょう。
一貫性のあるルールを作る
一貫性のあるルールを作ってあげることもとても重要です。例えば,おしゃべりが止まらない,騒いでいるときには静かにさせるためにゲームを許す一方で,家や先生が話しているときにはゲームや遊びを注意するといったダブルスタンダードな行動は子どもを混乱させることになるのでやらないようにしましょう。もちろん,子どもがいけない行動をしたときには注意をする必要があるので,そのようなときには一貫性のあるルールを作り,それに基づいて叱るようにするのがよいでしょう。
子どもの特性や得意・不得意に合わせた対応を考える
障害のある子だからと言って,何でもかんでもサポートしてあげようとすることは逆に子どもの成長を妨げてしまいます。発達障害の子は特性上,得意不得意の差が激しい傾向にあり,得意なことに関しては「一人でやってみたい」と思っているかもしれません。ですので,その子に合った適切な支援を行うためにも,普段から子どもと会話したり行動を観察することによってできることとできないことをきちんと理解し,求められたときにだけ手を貸せる態勢を整えておくことが重要です。
発達障害の子どもの親御さんとはどう接すればいい
まずは「発達障害は親のせいではない」と伝える
まずは,発達障害は親のせいではないということを伝えるのが重要です。自分の子が発達に困難を抱えているかもしれないという事実を知った時の保護者に気持ちを十分に理解し,「自分の育て方が悪かった…」「障害の子を産んでしまった…」「愛情が足りなかった…」などと後悔したり自分を責めることがないように,発達障害は親のせいではないと伝えることで親御さんは愛情深く精一杯子育てをしていることを認めてあげるようにしましょう。
保護者の気持ちに共感して寄り添う
わが子が発達に問題を抱えているかもしれないと知ったとき,保護者は大変大きなショックを受けます。そして,その事実を最初は認められないこともあるでしょう。そのようなときには,保護者の不安な気持ちに共感して寄り添ったあげることが大切です。決して「あなたは一人じゃない」という旨のことを伝え,一緒に子どもを見守ってサポートしていくスタンスを整えるようにしましょう。保護者の気持ちに寄り添ってあげることで保育者との間に信頼関係が生まれ,親御さんが徐々に子どもの障害と向き合えるようになっていくかもしれません。
うまくいった関わり方をアドバイスする
発達が気になる子の親御さんは,子どもへの接し方に悩んでいる場合が多いです。なので,保護者の子どもについての理解をより深めるためにも,園での子どもの様子を日々少しずつ伝えていき,園と家庭での子どもの行動の共通点と違いについての気づきをもたらすようにしましょう。そしてその上で,うまくいった接し方についても話すことが大変重要です。子どもの園での様子とうまくいった関わり方を伝えることで,親御さんの子育てに対する困り感を軽減し,良き相談相手として保育者との信頼関係も築くことができるでしょう。
心配な点だけでなく子どもの長所や才能についても伝える
子どもの心配な点のみを伝えると,保護者は「どうして他の子はできるのにうちの子はできないのだろう…」「うちの子のいいところってないのかしら…」などと他の子と比較して焦りや不安を感じてしまうかもしれません。そこで,親御さんに対してその子の長所や才能,成長を感じられた部分についても伝えるようにしましょう。発達障害は決して病気ではなくその子の特性です。自分の子のプラスな面を実感することで,保護者も自分の子の障害に対してポジティブに向き合っていくことができるようになるのではないでしょうか。
支援や治療は?
療育
療育とは,子どもが持つ問題特性の改善に取り組むとともに、その子の状態・特性に応じた個別の発達支援を行うことで充実した生活が送れるようにする取り組みのことです。子どもは一人一人発達のスピードが異なるため,特に得意不得意の凸凹が顕著な発達障害の子に対して発達の状況や障害特性に合わせた関わりをすることが重要です。療育的な支援を行うことで子どものできることが増え,もしかしたら隠れた才能を引き出すことができるかもしれません。
薬物療法
症状によっては,薬による治療が有効になることがあります。薬は6歳以上から服用が可能で,脳内の神経伝達物質のアンバランスを調整し、症状のコントロールを行うことができます。薬は症状を完治するのではなく,あくまでも症状を緩和させるためにい用いるものであるということは理解しておいた方がいいでしょう。また,薬による治療と合わせてスキルトレーニングや心理的な支援を行うことも重要になってきます。
障害者手帳
もし発達障害だと診断されれば,療育手帳または精神障害者保健福祉手帳の2種類を取得できる可能性があります。「療育手帳」は知的障害を伴う方、「精神障害者保健福祉手帳」は知的障害を伴わない発達障害の方が対象になります。障害者手帳を取得すると,
- 特別支援学校などに入学ができる
- 将来の就職時に障害者枠での応募ができる
- 医療費の助成や税金の減免措置,生活保護の障害者加算など行政上の優遇が受けられる
- 電車やバスなどの公共交通機関、公共施設,映画館などの無料化や割引きがあるケースがある
などのメリットがあります。もし必要なのであれば自治体の福祉相談窓口に問い合わせてみるのがいいでしょう。
合理的配慮
合理的配慮とは,障害を持つ方が社会の中で出会う困難や障壁を取り除くための個別のニーズに応じた調整や変更のことです。合理的配慮の例としては,聴覚過敏の子にイヤーマフの使用を許可する,学習に困難のある子に個別の学習支援員を配置する,耳からの情報処理が苦手な子に図やイラストにして視覚的に伝えるなどが挙げられます。障害のある方と周囲のきちんとした相互理解のもとで合理的配慮を行うことで,双方にとって過ごしやすい環境を作ることができるのです。
障害児保育や加配制度の活用
障害児保育とは障害のある子に対してなされる保育で,障害の種類や程度に応じたサポートがなされます。また,加配制度とは、発達に遅れがあったり障がいを持つ子のサポートに新たに保育士がつき、生活面や集団参加をサポートしてくれる制度のことです。自治体や園によって障害児保育を受けられる基準や配慮の内容は異なるものの,保育園でも障害を持った子に対するサポートが充実してきているので,必要であれば利用を考えてみてはいかがでしょうか。
まとめ
今回は発達障害について幅広く紹介してきましたがいかがだったでしょうか?発達障害とは,本人の特性(得意・不得意の極端な凸凹)と周囲の環境や人の接し方がうまくかみ合わないことで子どもが「生きづらさ」・社会生活上の困難を抱える状態のことです。この記事を読んで発達障害について理解することで,子どものできることとできないことを考慮した適切な対応ができるようになれば幸いです!
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