ADHDの子供に行う療育とは?【手帳・方法・内容・発達障害・ペアレントトレーニング】

発達障害の一種であるADHD。今回の記事ではこのADHDを持つ子供に対する療育について、目的から方法まで詳しく解説していきますよ。ADHDについて知識は持っているけれど、具体的にどう対応したらいいか分からない、という保育士の方もいるのではないでしょうか。しかしながら保育園にADHDを持つ子供が通っているケースは多く、療育の知識を持った保育士が求められています。さらに療育を行う療育施設は、保育士の活躍の場の一つ。この療育施設についても解説していますので、ぜひ参考にしてくださいね。

そもそもADHDって何?

不注意と多動性・衝動性を主症状とする発達障害

ADHDは不注意と多動性・衝動性を主症状とする発達障害の一種。注意欠如・多動症と呼ばれることもあります。不注意や多動性・衝動性のうちどれかの症状がみられることもあれば、いくつかの症状を併発することもあります。また症状の強さにもグラデーションがあり、個人差が大きいのがADHDの特徴です。

ADHDの主症状
  • 不注意…集中力を保つことができない、忘れ物が多いなど
  • 多動性…貧乏ゆすりや手遊びがとまらない、順番待ちが出来ないなど
  • 衝動性…思いついたままに行動してしまう、感情が抑制できないなど
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ADHDの子供に行われる療育とは

福祉的・心理的・教育的及び医療的な支援

療育と同義で用いられる児童発達支援について、厚生労働省は以下のように定義しています。

“児童発達支援は、障害のある子どもに対し、身体的・精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である。”
‐厚生労働省 「児童発達支援ガイドライン」

つまり療育は、全ての障害をもつ子供に行われる包括的な援助のこと。一方で障害の種類によって求められる療育は異なります。ここではADHDの子供たちに対する療育を中心に解説していきますよ。

子供のADHDは療育で治る?

ADHDを治すことは難しい

ADHDが療育によって治ることを期待している保育者の方もいるのではないでしょうか。しかし実際のところ療育によってADHDを治すことはできません。これはADHDが先天的な脳機能障害であると考えられており、少なくとも親の育て方や本人の努力不足による障害ではないためです。またそもそも療育はADHDを治すために行われる支援ではありません。それではADHDの子供に行われる療育は、一体何を目的としているのでしょうか。次の段落で解説していきますよ。

ADHDの子供に行う療育の目的

適切な発達を促し生活しやすい環境を整える

ADHDの子供たちに対する療育の目的は、適切な発達を促し生活しやすい環境を整えること。ADHDの症状があることを前提に、子供自身やその周囲環境へアプローチをしていきます。ADHDの子供はその特性によってストレスや困難を抱えることが多く、うつ病や適応障害といった二次障害を患うことも。こういった事態を防ぐためにも、子供が社会生活や日常生活に順応できるよう適切な援助を行うことが求められます。

ADHDの子供に行う療育はいつから?

幼児期から行われる早期療育も

ADHDの子供に対して、幼児期からの早期療育が行われることがあります。ただしADHDの子供は幼児期には単なる活発な子供として捉えられ、生活に問題が生じないケースも。また周囲の人がADHDの症状ではないかと疑う行動も、年齢につりあったものである可能性が大いにあります。保育園や家庭での生活において、ADHDではないかと不安を感じた際にはまず精神科や発達障害者支援センターなどの専門機関に相談しましょう。

ADHDの子供は療育手帳を取得できる?

知的障害を併発している場合のみ取得できる

“療育手帳は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において、知的障害があると判定された方に公布される手帳です。障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスや、各自治体や民間事業者が提供するサービスを受けることが出来ます。”
‐厚生労働省 「障害者手帳」

療育手帳は知的障害を持っている方のために自治体から提供される福祉制度。ADHDは知的障害には含まれないため、療育手帳を取得することはできません。一方で知的障害とADHDを併発するケースもあり、この場合には療育手帳を取得することが出来ます。

ADHDの子供が受けられる公的な支援

精神保健福祉手帳の取得により福祉サービスが受けられる

精神保健福祉手帳は、一定の精神障害の状態にあることを認定するもの。精神障害者の自立と社会参加の促進を図るため、手帳を持っている方々には、様々な支援策が講じられます。
‐厚生労働省 「障害者手帳」

ADHDを含む精神障害者の方のために、精神保健福祉手帳の取得による特別な支援が用意されています。NHK受診料の減免や公共料金の割引、税金の減免を受けることが出来ますよ。ADHDの診断を受けた場合は、市町村の担当窓口に相談しましょう。

ADHDの子供に対する療育方法

環境調節

ADHDの子供の生活に問題が生じている場合に、子供の周囲環境を整えることによって解決をめざすのが環境調節。環境調節の例として以下が挙げられます。

  • 物理的な環境調節の例
    問題:気が散ってしまい勉強できない
    環境調節:できるだけ余計なものが置かれていない空間で勉強する。
  • 人的な環境調節の例
    問題:先生や保護者に注意されることが多く、自信が持てない
    環境調節:出来たときには積極的に褒める

認知行動療法

認知行動療法は、ものに対する捉え方や考え方である認知に働きかける精神療法。本人の気持ちを楽にしたり、誤った認知から生じる不適応行動を減らすことが目的とされます。現実から遊離した考え方のクセである認知のゆがみ。これには0か100かで考えてしまう白黒思考や、出来事を悪く捉えてしまうマイナス化思考などがあります。特性であるこだわりの強さから、こういった認知のゆがみが生じやすいとされるADHDの子供たち。認知行動療法により新たな視点を手に入れることが、悩み事を解決するための手立てになることがあります。

(SST)ソーシャルスキルトレーニング

ソーシャルスキルトレーニングとは、生活において必要なスキルを身に着けるために行われる訓練のこと。上記で紹介した認知行動療法の手法も取り入れられていますよ。また社会性に重点を置き、基本的に集団での実践的な訓練を行うのがソーシャルスキルトレーニングの特徴。具体的にはロールプレイや共同作業、絵カードを用いた学習等が行われます。目的は下記の4つに大別され、本人の希望に応じた訓練が行われますよ。

訓練の目的
・基本的な生活スキルの獲得
・社会規範(ルールやマナー)への適応
・対人関係のスキルの獲得
・問題解決のスキルの獲得

ADHDの子供を持つ保護者への支援も療育

保護者をにアプローチするペアレントトレーニング

保護者にアプローチするペアレントトレーニング
ペアレントトレーニングは、発達障害の子供を持つ保護者を対象にした家族支援プログラムの一つ。支援機関で行っている療育を家庭でも行えるようにすることや、保護者の心理的ストレスを軽減することが目的とされていますよ。プログラムの基本構成は以下のようになっています。

  1. 専門家による講義
  2. 保護者同士でのグループワーク
  3. 学習したことを家庭で実践するホームワーク

講座の所要時間や開催回数は支援機関によって異なりますので、まずは近くの支援機関に相談してみましょう。

ADHDの子供が療育を受けられる施設

福祉型の療育施設

ADHDを持つ18歳までの子供は、療育施設において療育を受けることが出来ます。通所型の障害児通所支援と、入所型の障害児入所支援の2種類に分けられる療育施設。初めに障害児通所支援を紹介します。

障害児通所支援の種類
  1. 児童発達支援
    対象:障害のある6歳までの子供(未就学児)
  2. 放課後等デイサービス
    対象:6歳以上の子供(支援が必要と認められた場合は20歳まで利用可能)
  3. 保育所等訪問支援(子供が通う学校や幼稚園への訪問支援)
    対象:集団生活を営む施設に通っていて、集団生活への支援が必要と認められた障害のある子供
  4. 医療型児童発達支援
    対象:上肢、下肢または体幹機能に障害があり、理学療法士等による医療的な支援が必要であると認められた子供

障害児通所支援を受けるに際して障害者手帳の取得は必須ではありません。児童相談所や市町村保健センター、また医師等により日常生活や集団生活において支援が必要と認められた子供が障害者通所支援を利用することが出来ます。

医療型の療育施設

続いて障害児入所支援を紹介します。

障害児入所支援の種類
  1. 福祉型障害児入所施設
    対象:障害のある18歳までの子供
  2. 医療型障害児入所施設
    対象:上肢、下肢または体幹機能に障害があり、理学療法士等による医療的な支援が必要であると認められた18歳までの子供

障害児入所支援は、必要と認められた場合には20歳まで利用可能です。また障害児通所支援、障害児入所支援のどちらの利用に際しても、窓口での受給者証の申請が必要です。まずは市町村保健センターや児童相談所、保健所等へ相談しましょう。

保育園と療育施設の違いは?

作業療法士や児童指導員等の専門スタッフがいるかどうか

保育園と療育施設の大きな違いは、保育士以外の専門スタッフがいるかどうかです。療育施設に在籍する保育士以外の専門スタッフの例としては、下記が挙げられますよ。

療育施設に勤務する専門スタッフの例
・作業療法士
・理学療法士
・専門学校
・言語聴覚士
・児童指導員
・訪問支援員
・児童発達支援管理者

療育施設は保育士の職場の一つ

保育士が療育施設で働くためには?

保育士は保育園や認定こども園のみならず、療育施設においても活躍しています。児童発達支援センターなど、指定基準において保育士の配置が規定されている施設もありますよ。また保育士が療育施設で働くにあたって追加で必要な資格はありません。一方障害者支援の経験がある保育士や、児童指導員等の療育に関わる資格を合わせて取得している保育士は、療育施設において歓迎されますよ。

ADHDの子供に対する療育は保育園でも生かせる

保育士が療育を学ぶことのメリット

療育に関する知識が求められるのは、療育施設だけではありません。保育園に通う子供が発達障害を抱えている場合、療育の知識を持った保育士が在籍していることで適切な対応を取りやすくなります。ADHDの子供を持つ保護者にとっても、発達障害に対して理解ある保育士が働いていることは安心材料になりますよ。また近年ADHDを含む発達障害に関する知識が広まると同時に、幼児期からの療育を希望する保護者が増えています。このため保育と療育のスキル、両者を兼ね備えた人材に対する需要が高まっていくことが予想されますよ。

まとめ

療育でADHDの子供が抱える生きづらさを軽減しよう!

今回の記事では、ADHDの子供に対する療育について解説しました。その特性から、生きづらさを抱えることも多いADHDの子供たち。早期からの療育を始めることで、子供が生きづらさを感じる前に対策を行うことが出来ます。そして幼児期の療育に欠かせないのが保育士の存在。障害児通所支援や障害児入所支援といった療育施設はもちろんのこと、保育園においても療育の知識をもった保育士が求められています。今回紹介した療育に関する知識はぜひこれからの保育に取り入れてくださいね。

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保育士くらぶは保育士の転職キャリアサポートを行うアスカが運営しています。保育士くらぶ編集部のメンバーは元保育士や幼稚園教諭出身のメンバーを中心に「保育業界をもっと良くしたい!」という思いがあるメンバーが在籍し、日々執筆しています。保育士くらぶでは現役保育士さんが職場で活かすことが出来る、保育のノウハウやネタ、保育学生にとって必要な知識などを発信しています。 アスカは保育士の就職支援を行う会社です。1994年創業。全国で約10万名の保育士、幼稚園教諭の皆さまが登録しています。年間約1万名がアスカを通じて保育園や幼稚園、学童などの施設への就職を決めています。 保育士の求人情報は 【保育求人ガイド】 https://hoikukyuujin.com/ プロフィール入力で園からスカウトを受ける 【保育士スカウト】 https://www.hoikushiscout.com/